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ハイキングや山行で、栄養のバランスをもう少しコントロールしたい。そのために何が必要なのだろう? そんな問いを発端にして、トレイルフードの企画・開発を行うチームを立ち上げました。

歩いて移動する旅では、食べ物が糖質や脂質に偏りがちです。炭水化物、タンパク質、脂質、そしてビタミン類、さらには食物繊維などをまんべんなく取り入れることを考えたとき、改めて和食の機能性に立ち戻ることになりました。

ハイキングや山行の道中で、和食の知恵に感心するシーンがたびたびあります。例えば…

1. 出汁(だし)

そもそも出汁とは料理に深い味わいを与えることから、和食にとって欠かせない“味わいの軸”として活躍しています。

おいしさという情緒価値だけでなく、昆布や鰹節など天然のうま味素材でとった出汁には、健康や栄養面に寄与する機能価値も備わっています。昆布に含まれるグルタミン酸や鰹節に含まれるイノシン酸は、いずれもうま味成分として知られています。うま味成分は唾液や胃液の分泌を促進することから、食物の消化吸収がスムーズになり、消化器官の負担を軽減します。 鰹節に含まれるビタミンB群はエネルギー代謝を助け、疲労回復に寄与します。昆布に豊富に含まれるヨウ素やマグネシウムなどのミネラルは、筋肉の収縮と弛緩に関与し、正常な筋肉機能の維持を助けてくれもします。出汁は徒歩による旅を継続するための機能価値を多く持っているのです。

2. 乾物

和食で乾物を多用するのはご存知のとおりです。昆布・海苔・ワカメなどの乾燥海藻、煮干し、干し椎茸、切り干し大根、高野豆腐、乾燥納豆などなど。

本来は長期保存という目的のために乾燥という手段をとって生まれた乾物は、結果的に軽量性という副産物的な価値を帯びることになりました。軽量性に富んでおり、常温で持ち歩ける。水で戻すだけで食べられるだけでなく、そのままでも食べられるものも多い。食物繊維を摂取できるだけでなく、干すことによってうま味も増す。そんな乾物は、使い方次第では、生活の一切を背負って歩く旅との親和性が極めて高くなるのではないでしょうか。

3. 味噌汁というシステム

出汁に味噌を溶いた液体に食材を加える味噌汁。豆腐やワカメなどの一般的に味噌汁に入れられる食材以外にも、トマトやキュウリ、余った刺し身など、ほぼどんな食材もそれなりにおいしく感じられてしまう。

生食できる食材なら煮込む必要もない。味噌汁とはそんなシステムだと思うのです。その味噌汁というシステムを応用して、室町時代に生まれたのが「芳飯(ほうはん)」と呼ばれる飯料理でした。飯の上に野菜や魚を刻んでのせ、熱々の出汁や味噌汁を注いで食べるこのスタイルは、具だくさんのお茶漬け(もしくは汁かけ飯)として楽しまれていました。

4. 和菓子

菓子もまた和食にとって欠かせない存在です。米や麦、小豆を代表とする豆類、そして砂糖や水あめなどの材料でつくられた和菓子の中には、羊羹やういろうなど、常温で持ち歩くことができるものも多々あります。

確かに重量はかさみますが、コンパクトでパッキングもしやすく、少ない量でも運動量に見合うカロリーを摂取することができるという意味で、山行のお供に携えるハイカーも少なくありません。

5. 一汁三菜の構造

「飯(ご飯)」を軸にして、「汁(味噌汁・吸い物など)」と「菜(おかず)」を添え、香りや食感を「香の物」で補うという一汁三菜の構造は、炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などをバランスよく摂取できるため、栄養バランスの設計を容易にしてくれます。

「飯」を食べるために「汁」や「菜」や「香の物」を重ねていくと考えれば、一汁三菜の構造はまさに食事のレイヤリングシステムと呼べるでしょう。

6. 和食文化の精神性

文化としての和食の特徴は、バリエーション豊かな地域性、自然を尊重する姿勢など、いくつか挙げられますが、健康長寿を願うという精神性も和食の本質のひとつとされています。

例えばおせち料理などのハレの日の料理。日本は南北に長い国土ですから、地理や気候が各地で異なるため、おせち料理も地域ごとにさまざまなバリエーションがあります。しかし、それを食べることで「邪気や災厄をはらい、健康長寿を願う」という点は、全国どの地域のおせち料理にも共通しています。健康で長生きしたいという強い指向が和食の根底にはある。体によいものを求めてきた結果として、栄養バランスがよく、健康的な食文化をつくりあげたともいえるでしょう。

それらを踏まえて、
私たちが吟味したのは以下の6点です。

  1. 軽量性と常温における保存性

  2. 天然の上質な出汁食材の活用

  3. 古来から和食に使われてきた
    乾物の活用

  4. 酸味・香り・食感を
    駆使したおいしさ

  5. 栄養のバランスの確保

  6. 一汁三菜から発想を得た
    「食」を道具として捉える
    考え方

食を道具と捉え、レイヤリングシステムとして解釈。

特に、一汁三菜から発想を得た「食」を道具として捉える考え方には、栄養バランスを確保するために助けられました。「飯と汁」を軸に、3種の「菜(おかず)」で構成され、香りや食感を「香の物」で補うという一汁三菜の構造は、まさに食事のレイヤリングシステムです。

看板として掲げた「YAMABUSHI TRAIL FOODS」は、もちろんあの山伏にちなんでいます(大変おこがましく、恐縮ですが...)。山に伏す(=暮らす)人という意味で山伏。信仰の対象となっていた霊山を巡り修行をしていた修験者として知られています。山と里を行き来して祭りを執り行い、民間信仰を担っていただけでなく、未開の霊山の道案内・宿所の手配・飲用水の調達方法を指南するなどのガイド役として機能し、山でとれる薬草で病気を治療する医療機能を持ち合わせ、ときには読み書きを教える教育機能としても活躍していました。そして、人々の暮らしと自然との間の調和を促し、山や森林などの自然環境に対する畏敬の念を育みました。食の領域では、山でとれる木の実・きのこ・山菜などの食べ方にはじまって、食材の保存方法や調理方法など、食の知恵を各地に伝えるメディアのような機能も持っていたことでしょう。

いくつもの小国がひしめき合っていた日本列島、北前船などの航路がなかった時代には、山の稜線は遠隔地をつなぐハイウェイでした。多くの物を運ぶことはできませんでしたが、山伏がもたらす情報は、生きるための知恵を各地に伝播したことでしょう。

これらの山伏の多面的な役割や精神を受け継ぎ、ハイキングや山行における食事に関する知識と経験を共有したいという想いから生まれました。トレイルフードを通じて、山での生活や旅行に役立つ情報や知恵を提供し、山伏のように山と人々を繋げる存在となりたいという思いが込められています。そう、単にトレイルフードをつくりたいのではない。ハイキングや山行の食に関する知の集積をつくりたい。そう願っています。